2011年3月7日月曜日

己を知る、チーム力を引き出す

従業員規模100人以上の上場企業に勤め、部下が1人以上いる「課長」を対象とした産業能率大学の2010年の調査では、プレーヤーとしての仕事の方が多い課長は、4割に達しています。そして過半数の人が、業務量が増加していると答えています。

 自分自身のメンタルヘルスに不安を感じたことがある人も4割強。その主な原因は、「上司との人間関係」、「成果創出へのプレッシャー」、「仕事の内容」、「部下との人間関係」、「仕事の量」などです。

 「時間がない」と感じるマネジャーが大半でしょう。仕事を任せられる部下が育っていない。管理する人数が増えている。雇用形態の変化の中、多様化する部下をまとめなければいけない。職場のストレスが増大する中、メンタル面の管理も必要だ・・・。

信頼されるマネジャーがもつ資質とは

 そんな中、課長層には何が求められているのでしょうか。同大学が企業の人事教育部門に対して2008年に行った調査の中では、課長層には「部下育成力」、「問題解決力」がとくに求められています。

 こうして見ると、課長に求められることは、リーダーシップを確立しながら、職場での信頼関係および人間関係を構築した上で、部下やチームの可能性を引き出し、成果を上げることといってもいいでしょう。

 信頼されるリーダーになり、職場での人間関係を構築し、部下やチームの可能性を引き出すことは、結局時間を節約することにもなります。

 それでは、信頼されるマネジャーとは、どのようなものでしょうか。その資質を、下記のように挙げてみました。

1)主体的に考え、意欲的に取り組み、行動する力があり、部下の手本となる。

2)十分な自己理解があることで、自分の強みや弱み、人との関わり方、仕事のしかた、リーダーシップのスタイルなどの傾向性を知り、自分の可能性をどのように伸ばしていけばいいか、把握している。

3)十分な他者理解があることで、相手を尊重し、気持ちをくみ取ることができる。また、多様な人たちと迅速に円滑な人間関係を構築することができる適応力をもっている。さらに、相手の個性に応じた、可能性を引き出す関わり方ができる。

4)メンタル面が強く、精神的に安定している。困難な状況でも前向きに可能性を探り、課題や問題に対して、落ち着いて対応することができる。

 本コラムでは、こうした資質を伸ばし、信頼されるリーダーになるため、「エニアグラム(9つの性格タイプのシステム)」がどのように活用できるかをご紹介します。

 エニアグラムがどういうものかについては、以前、こちらのコラムで書いた『「9つの性格タイプ」でよくわかる』をご参照ください。

優れた資質や動機を明らかにしてくれる

 エニアグラムは、9つの性格タイプごとに、具体的なプロフィールを提供してくれます。各タイプの特徴(長所・短所を含む)、動機、適性、行動スタイル、ものごとへの取り組み方、ワークスタイル、コミュニケーションのしかた、リーダーシップ・スタイル、ストレスの状態と対応方法、可能性の伸ばし方などです。

 また、能力開発や円滑な対人関係を阻む思考・感情・行動パターンを分析し、解決のためのヒントも提供します。コーチングの世界でもよく使われています。各タイプのリソース(優れた資質)や動機を明らかにしてくれるからです。

 1つ例を挙げてみましょう。上司のあなたが部下に対し、「期待しているよ」という言葉をかけたとします。もちろん、そう言われて、やる気が出る人もいます。

 しかし逆に、「この人は自分に何をどこまで期待しているのだろう」、「自分のことを本当に分かっていっているのだろうか」などの考えが頭の中でわいてきて、かえってプレッシャーに感じる人もいます。相手が明確な方向性や責任の範囲を示してくれる方が、力がフルに発揮できると感じるのです。これは「タイプ6」の例です。主な動機として、「安定」を求めているタイプです。

 ただし、エニアグラムにおいては、同じタイプの中でも、「健全度の違い」があるという考え方があります。ストレスが強く、健全度が低い人というのは、精神的に不安定で、自己防衛が強く、内面の動機につき動かされがちです。

 「タイプ6」の例を挙げてみましょう。健全度が低ければ低い程、不安が強くなり、安定を必死で求める行動をとります。一方、健全であれば、ゆとりがあり、問題があっても落ち着いて対応できます。性格のパターンにとらわれず、可能性を伸ばしていけるのです。

 エニアグラムは、タイプごとに、ストレス状態でどうなるか、また、健全になり、可能性を伸ばしていけばどうなるかについて説明していますので、自分自身のためはもとより、部下のマネジメントにも大変役立ちます。

自分に自信を持ち、可能性を伸ばしていく

 9つの性格タイプについては、「人間はそんなに単純に分類できるものではないだろう」と、興味を示さない方もいるでしょう。私自身も長い間、同じ理由で性格分類に関心がありませんでしたから、よく分かります。確かに、人間は一人ひとり異なる、ユニークな存在であり、心の奥底は知りようがありません。ただ、人の傾向性を大きく9つに分けてとらえることには、十分有用性がある、と言っているだけなのです。

 それは、過去20数年に渡り、数万人の方々に対して研修を行う中で、有効性を検証してきた経験から、確信をもって言うことができます。しかも、さまざまな国でエニアグラムを活用してきましたが、文化を問わず、9つのタイプを見いだすことができるのです。

 私は、多くの方々がエニアグラムによって自己理解を深めることにより、自分に自信を持ち、可能性を伸ばしていくのを見てきました。また、他者理解を深めることにより、人間関係が本当に楽になります。

 生きている限り、人間関係の悩みから完全に解放されることはないでしょうが、人がなぜ特定の振る舞いをするのかを理解できれば、「なぜこうなんだ」と悩んだり、感情的に反応して時間やエネルギーを費やしたりする必要がなくなります。「なぜ」から一歩進んで、前向きに問題解決に取り組むことができるのです。

 お互いの違いがすれ違いや葛藤で終わるのは、大変もったいないことです。エニアグラムを使えば、お互いの違いを理解し、生かし合い、可能性を広げることが実際に可能であるということがよく分かります。

 また、「人を枠に入れるのは、よくないのでは?」と思う方もいるでしょう。しかしエニアグラムは、人を枠に入れるためのものではありません。既に持っている性格的パターンを自覚した上で、可能性を広げていくためのものなのです。

 最近は、企業でも個性を大事にするところが増え、部下の個性を見極めて対応する必要性が説かれます。しかし、そもそも個性とは何か、を私たちは具体的に教わったことがありません。エニアグラムは、各タイプの詳細なプロフィールを明らかにすることで、自分らしいリーダーシップ・スタイルを伸ばしていくことができると共に、部下の可能性を引き出す関わり方ができるようになるのです。

タイプ診断簡易テストをしてみましょう

 自分の性格タイプは、自己イメージ(こうなりたい自分)ではなく、「実際行動」を振り返りながら発見していくものです。自動的に回答が出てくるような性格診断とは違います。自分の中に実際に発見していくものなので、一般的な性格診断よりもリアルな感覚があります。

 あくまで目安にすぎませんが、自身を振り返るきっかけとして、以下のタイプ診断簡易テストを試して下さい。

 次の質問群I、IIそれぞれについて、3通りの文章のうち、これまでの自分を振り返って、最も自分に当てはまると思うものを直感的に1つ選んで下さい。

<注意点>

・すべての内容に合意できなくても、他の2つの文章よりも自分に当てはまると思えるものを直感的に選択して下さい。

・これまでの人生の大半において実際にそうだった、そして仕事上の役割だけでなく、プライベートでも当てはまると思える傾向をお答えください。

・どの文章にも当てはまるかもしれないような、例外的な状況は考えないでください。

・疲れている時など、通常の状態ではない時に回答するのを避けましょう。

[質問I]

A.自分が欲しいものに対しては、直進する傾向がある。

B.周りに気を遣い、折り合いをつけようとする。こうあるべきという意識が強い。

C.自分の世界をもっていて、人に対しては、一定の距離を置きながら関わりがち。

[質問II]

D.根拠はなくても、ものごとは結局なんとかなると思っている。反面、嫌なことにフタをする傾向がある。

E.冷静で合理的。気持ちをあまり表現せず、クールに見られることもある。

F.何かあると、すぐ気持ちが反応する。相手が本音をいってくれないと、納得できない。

 それでは、タイプ診断結果を確認してください。

[タイプの判定結果]

I

II

タイプ(名称)

A

D

7(熱中する人)

A

E

3(達成する人)

A

F

8(挑戦する人)

B

D

2(助ける人)

B

E

1(改革する人)

B

F

6(信頼を求める人)

C

D

9(平和を好む人)

C

E

5(調べる人)

C

F

4(個性を求める人)

 これは、自己診断による簡易テストです。その結果はあくまでも目安ですので、絶対視しないようにしましょう。下の表1「各タイプの説明」と併せて、ご自身のタイプを探してみて下さい。

 前回のコラムの表は、課長の9つの「リーダーシップ・スタイル」に焦点を当てました。今回は、各タイプの全般的特徴と「動機」を説明しています。自分についても部下についても、可能性を伸ばすのに役立てていただけると思います。

各タイプの説明

 

タイプの名称

人物例

本能タイプ

挑戦する人

パワフルで、腹がすわっています。手応えのある人生を欲します。自信があり、リスクや挑戦を恐れません。意志が強く、現実的で、はっきりものを言います。相手に隠し事をされることを好まず、本音を引き出そうとします。目をかけている人や親しい人に対しては、情に厚く、面倒見がいいところがあります。弱いことが嫌いで、タフにふるまいます。ストレスが強まると、周囲に威圧的になることがあります。思い込みや猜疑心が強くなり、第三者の意見を客観的に聞くことができなくなることも。強引になり、周囲から敬遠されることもあります。
動機:周囲をコントロールしたい。

星野仙一
和田アキ子

平和を好む人

穏やかでのんびりしていて、人に安心感を与えます。周囲が平和で、調和していて、居心地よくいられることが大事です。控えめなところがありますが、周囲が考えている以上に豊かな想像力や才能をもっています。人生については基本的に楽観的で、なんとかなるという感覚があり、ものごとを実際よりもいいように見る傾向があります。慣れ親しんだやり方やペースを守ろうとします。ストレスが強まると、はっきりとした意思表示をせず、問題を避けたり、やるべきことを引き延ばしたりします。また、頑固に現状維持をはかろうとしたり、神経質になったりします。
動機:快適でありたい。

鶴瓶
山崎静代

改革する人

自分の中の理想や理念が高く、目指すことに向かって、少しでも改善しようとハードに働く努力家です。責任感が強く、頼りになります。きちんとしていて、真面目です。質の高さを志向し、完璧主義の傾向があります。理性的で現実的。正義感が強く、公平。自分は正しいことを知っており、ものごとはかくあるべきという気持ちにつき動かされ、自分にも周囲にも厳しくなる時があったり、リラックスしにくい傾向があります。ストレスが強まると、頑固になり、自分を正当化したり、他の人は自分ほどきちんとできず、自分だけが責任を負っていると思いがち。
動機:正しくありたい。

王貞治
緒方貞子

フィーリング・タイプ

助ける人

人間関係が人生でもっとも大切なもので、人と人が気持ちを通わせることを大事に考えています。自分のことよりも人に意識が行きがちです。相手が何を必要としているかがわかる感覚があり、相手のために自然に動きます。相手の喜びが自分の喜びとなります。また、基本的に楽観的で、明るくフレンドリーです。人のいいところを見つけ、ほめることができます。ただ、自分と相手との境界線が曖昧で、相手の領域に踏み込みすぎることも。ストレスが強まると、相手の気持ちが読めずにおせっかいになったり、思い込みが強くなったりします。
動機:人に好かれ、必要とされたい。

萩本欽一
黒柳徹子

達成する人

可能性を信じて自分を常に磨き、「やればできる」という態度で物事に取り組みます。明確な目標に向かってベストを尽くし、達成できるまで、粘り強く取り組みます。人から評価されることにより、自分に価値があると感じます。合理的で適応力があり、目標を達成するためには、手段を柔軟に変えることも。自信があり、クールに見える反面、繊細なところもあります。ストレスが強まると、自分や人の気持ちを切り離し、達成したいことにまい進。その結果、自分の素直な気持ちを感じたり、親密な関係をもつことが難しくなったり、心身共に疲労することがあります。
動機:認められ、評価されたい。

本田圭祐
藤原紀香

個性を求める人

繊細で、感性が鋭く、感受性豊か。人生において、美しく、深いものを求め、それを創造的に表現する資質があります。自分のことを理解してくれる人を求めます。自分は他の人とは違い、特別であると考え、人生をドラマチックに考えるところがあります。一見、近寄りがたい雰囲気があることで、かえって注目されますが、ユーモア感覚や人に優しいところもあります。自分の気持ちに正直であることを大事にしますが、ストレスが強まると、自意識も強まり、気持ちのムラが大きくなります。そのため、本人も周囲もそれに対応することが難しい時があります。
動機:自分の存在意義を見つけたい。

沢田研二
アンジェリーナ・ジョリー

思考タイプ

調べる人

典型的な思考型で、理性的。物事を理解しようとして、集中的に知識や技術を習得し、詳しい分野をもっています。物事の渦中に入っていくよりも、一歩引いて観察します。洞察力が鋭く、既成観念にとらわれず、斬新な発想をしたり、独自に考え、結論を出す事を好みます。気持ちを表現せず、自分の頭の中で考えを展開したり、結論に至る自己完結的なところがあるため、周囲の人から理解されにくいこともあります。自分も人も自立していることを好みます。ストレスが強まると、人の気持ちを十分くみとれなかったり、自分の世界にこもります。
動機:生存していくための能力をもちたい。

佐野史郎
荒川静香

信頼を求める人

信頼できるものを求め、こうあるべきと考え、真面目に努力します。仕事や人間関係などにおいて責任感が強く、仲間を大切にします。周りのさまざまな期待に応える気持ちが強く、頼りになる反面、優柔不断になったり、無理をすることもあります。安定志向で、頼りになる人や考え方、方法、組織などを求め、献身的に働きますが、本当に信頼できるか、揺れ動くこともあります。起こり得る問題に敏感であることは才能でもありますが、ストレスが強まると、不安が高じ、否定的な思い込みが強くなり、最悪の事態を考えたり、感情的になることがあります。
動機:安心したい。

草�
高橋尚子

熱中する人

人生を楽しみ、好奇心が強く、新しいことや楽しいこと、ワクワクすることに熱中します。明るく、フレンドリーで、周囲の気分を盛り上げます。積極的でアイデアにあふれ、考えたらすぐ動きます。ものごとに楽観的で、自由を好みます。多才で複数のことをスピーディに仕上げることができる反面、ひとつのことに集中しにくい傾向があります。ストレスが強まると、多くの計画を立て過ぎ、実行できなくて苦しみます。忙しすぎて意識が散漫になり、物事にじっくり取り組んだり、人の話を聞くということが難しくなります。また、衝動的で短気になります。
動機:満たされ、自由でありたい。

小倉智昭
青木さやか

 いかがでしょうか。たとえ納得のいく結果がすぐ得られなかったとしても、あまり気にしないで下さい。本来はここにある情報だけでなく、書籍や研修など、詳細な情報や専門家の助けを必要とするものです。

 

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