2011年5月25日水曜日

Office 365の料金体系をめぐるIT管理者の不信感

  米Microsoftは4月18日にOffice 365の初のパブリックβを公開し、同製品のリリースに向けてわずかに前進した。しかし、オンプレミスおよびホステッドアプリケーションからSaaS(Software as a Service)およびOfficeのクラウド向けバージョンへの移行を同社がどのようにサポートしていくのか、さらに詳しい情報が提供されない限り、ITベンダーがOffice 365を適切に評価することは難しい。
 
IT管理者を不安にさせているのはOffice 365への移行だけではない。Microsoftはその他の主要なサーバ製品をSaaSおよびクラウドコンピューティングプラットフォームに移行することも計画しているが、これも不安要素となっている。クラウドベースのプログラムのみを提供する、小回りのきく競合からの圧力が強まっていることを考えると、Microsoftには失敗が許される余地は少ないと思われる。
 
「クラウドのオプション(プラン)を見ているが、ERP製品などに関してMicrosoftがこれまでしてきたことは、中途半端なように思える」と米大手小売業者のITディレクターは話す。「既存のインフラストラクチャからMicrosoftがOffice 365とWindows Azureによって語っているものへとどのように移行するか、全体像が見えない」
 
Microsoftは過去に、主要なアプリケーションやOSプラットフォーム間でのスムーズなシフトに失敗した際に大きなダメージを被らずにやり過ごしてきた。しかし、「サービスの時代」にそのような間違いを犯せばただでは済まないだろう。
 
「(Microsoftは)Windows XPからVistaへの移行など、移行に失敗しても大きな痛手を負わずに来た。しかし、オンラインの世界ではそのような間違いは許されない」と米Inter-Arbor Solutionsの主席アナリスト、ダナ・ガードナー氏は指摘する。「(Microsoftは)この移行を、手間、コスト、技術の面で落ち度なくこなす必要があるが、まだそれができていない」
 
ガードナー氏や他のアナリストは、Microsoftがこの新時代へのシフトに失敗すれば、米Googleや米salesforce.comなどの競合は、元からSaaS向けに開発されている各社の既存のコア製品に、メッセージングやカレンダー、コラボレーションなどのコモディティ機能を悠々と追加していくだろうと話す。
 
「Microsoft製品のほとんどのアーキテクチャは、SaaSやマルチテナント向けではない。また、サービス指向アーキテクチャのような複数のサービスを配置できる共通のコードベースもない」とガードナー氏は指摘する。
 
米コンサルティング会社のDirections on Microsoftでサーバアプリケーションリサーチ担当副社長を務めるウェス・ミラー氏は、技術的なロードマップの有無にかかわらず、これはかなり骨の折れる移行になる可能性を示唆している。Exchangeだけを考えても、現在のほとんどのビジネスで「心臓」の役割を担う影響の大きい製品だ。
 
「クラウド間の移行であれ、オンプレミスからクラウドへの移行であれ、データセンターをクラウドに移すのであれ、組織が大きくなればなるほど、ExchangeやSharePointなどのコア製品の移行計画は重要だ。しかし、MicrosoftはBPOSから学んだことなど、幾つかのベストプラクティスがあるだけで、現在は移行の初歩的な手引きを整えている段階だ」とミラー氏は説明する。
 
Officeのライセンス料が二重払いに?
 
エンタープライズITベンダーに進言する立場のITプロやアナリストは、Office 365の多様なライセンスオプションについて、より明確な説明が必要だと話す。Microsoftは2011年の初めに、Office 365のライセンスオプションを発表した(下表)。しかし、4種類のオプションのうちの2種類でOffice Pro Plusがスタンダードコンポーネントとして提供されていることから、Officeのエンタープライズライセンスを既に保有しているIT管理者は、Officeのライセンス料を二重に支払うことになるのではないかと危惧している。
 
Office 365のプランEファミリー
プラン名 1ユーザー当たりの月額料金 主な機能
E1 1000円 IMおよびプレゼンス、会議、SharePointサイトによるコラボレーション、電子メール、カレンダー、アンチウイルス/アンチスパム、個人用アーカイブ
E2 1600円 E1の機能+Webアプリケーション
E3 2540円 E2の機能+Office Pro Plus、ボイスメールおよび高度なアーカイブ機能、Access、Excel、Visioサービス
E4 2860円 E3の機能+PBXの代替となるボイス機能

訳注:日本での月額料金は、Office365のプランを参照

 
「Pro Plusのライセンス料を払う必要があるのなら、(Office 365の)E3オプションを私が支持する可能性はほとんどない。また、ローエンドの2つのオプションには、特に魅力を感じない」と前出の小売企業のITディレクターは話す。
 
E3を選んだ場合、月額料金の割引があるかどうかをMicrosoftの広報担当者に尋ねたところ、この担当者自身は、上位の2オプションでOffice Pro Plusを必要としない既存のOfficeデスクトップユーザーに割引が適用されるプランの存在は認識していないという回答だった。
 
しかし、E3を選択した場合、小売り版なら499ドルするOfficeの最上位バージョンを月々24ドルで使用できる。
 
Office 365の最初のパブリックβでは、2種類のプログラムが発表された。1つは25ユーザーまでの小規模企業向けで、もう1つは中堅および大規模企業向けのプログラムだ。
 
小規模企業向けのβプログラムでは、Office Web Apps、Exchange Online、SharePoint Online、Lync Online、外部Webサイトを利用できる。一方、中堅および大規模企業向けのプログラムには、電子メール、ボイスメール、エンタープライズ向けソーシャルネットワーキング、音声およびビデオ会議機能、Webポータル、Office Professional Plusのサブスクリプション版が含まれる。
 
また、この2種類のβプログラムと併せて、Office 365 MarketPlaceも発表された。Office 365 MarketPlaceでは、100種類のアプリケーションと400のプロフェッショナルサービスが提供され、Office 365のカスタマイズに活用できる。
 
今回のパブリックβには目立った追加機能はなく、主に、Office 365全体の操作性、処理速度、パフォーマンスの向上に注力されている。
 
Microsoftによると、このβ1に登録したユーザーの70%強は小規模企業であり、さらに規模の大きい企業が残りの30%を占めるという。ただし、パブリックβの参加対象が拡大され、年末に予定されている最終リリースに近づくにつれて、この割合は変化していくと一部のアナリストは見ている。
 
「現時点では、Office 365に最も魅力を感じるのは、思い切ってクラウドへの移行に舵を切ることができる小規模企業や中堅企業だ。しかし、大規模企業では、パイロットプロジェクトや複雑な環境でのテスト、展開など、検討すべきことが多い。大規模企業こそMicrosoftが移行を望む相手だが、現時点でクラウドに乗り出すのは規模の小さい企業になる」とミラー氏は話す。
 

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