原子力発電を推進してきたエネルギー政策は見直しを迫られ、電力を取り巻く社会システムが、大きく変わろうとしている。再生可能エネルギーを積極的に電力源として利用する試みに加え、送配電網と情報通信技術を融合させた「スマートグリッド」の導入、電気自動車を含む蓄電池を活用する動きが加速するだろう。
変化は、社会システムという大きな枠組みにとどまらない。オフィスや家庭といった日々の生活シーンでも、節電に取り組もうという機運が高まっている。継続的な節電に貢献するのが、「消費電力の見える化」や、「宅内エネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)」による機器制御の仕組みだ。
もちろんこれまでも、オフィスや宅内の消費電力を監視する仕組みはあった。ただそれらは、配電盤や分電盤に電力計を設置し、全体または系統ごとの消費電力を把握するものが主だった。ここ最近注目が集まっているのは、より細かく、機器ごとに消費電力を測定しようという取り組みである。機器ごとの消費電力の情報をインターネット上のアプリケーションソフトウェアと連携させ、利用者の行動を促すといったサービスの準備も整ってきた。
電源タップに無線機能を組み込む
2011年5月に開催された組み込み機器の総合展示会「第14回組込みシステム開発技術展(ESEC2011、2011年5月11〜13日)」や、無線通信関連の展示会/セミナー「ワイヤレスジャパン2011」(2011年5月25〜27日)では、消費電力の見える化に使う電源タップを各社が出品し、参加者の注目を集めていた。
これらの電源タップには、電力測定用センサーと無線通信機能が組み込まれている。各コンセントに接続した機器の消費電力の情報を、無線ルータを介してインターネット上のサーバに送れることが大きな特徴である。
無線機能を搭載した電源タップを展示した各社は、コンセントに接続した機器ごとの消費電力の情報を、タブレットPCやノートPCで確認できることや、電源のオン/オフを制御できることを見せていた。各ブースの担当者によれば、このような仕組みを導入することで、「いかに節電するかというポイントが明確に分かる」といった効果や、「消費電力の値を見せることで、日々の生活における節電意識を高めることにつながる」、「消費電力の情報を基に電力の使い方をアドバイスするといった、インターネットサービスと連携させやすくなる」という効果が得られるのだという。
無線方式はさまざま
消費電力の見える化に使える電源タップの構成は前述の通りシンプルだが、各社が異なる無線通信規格を採用しており、統一されていない。この点は、電源タップを使った節電システムの普及を進める上で、障壁になる可能性がある。
候補に挙がっているのは、物理層に「IEEE 802.15.4」規格を採用した独自プロトコルの無線や、低消費電力の無線通信規格「ZigBee」、920MHz帯または950MHz帯を使う「Z-Wave」、無線LAN(Wi-Fi)などである。ESEC2011やワイヤレスジャパン2011では、電源タップを展示した各社が自社製品の特徴に加えて、採用した無線通信方式の優位性をアピールしていた。
電源タップを使って各機器の消費電力を測定し、ブリッジ機器を介してインターネット上の管理サーバに情報を送る。この情報を基に、電気料金を表示したり、使用傾向を分析したり、節電目標に対する達成度合いを提示したりといった、節電のための行動を促す情報を提供するサービスである。
見える化の次は機器制御
電力の見える化が広まれば次に来るステップは、空調や照明といったさまざまな機器の稼働状況を、その時々の環境に合わせて制御するHEMSの実用化である。HEMSの頭脳となるのが、機器制御を管理するHEMSコントローラーだ。HEMSコントローラーが、どのような状況で、いかに機器を制御するかを各機器に指令する。
人工知能技術を空調制御に活用
室内の温度や湿度、消費電力の履歴、気象データを基に、空調の運転状態を自動制御するシステムである。例えば、在室している人数が増えたり減ったりといった室内環境の変化に対して冷やし過ぎを防いだり、外部の気温に合わせて設定温度を制御したりすることで、消費電力を削減する。
人工知能技術を活用することで、消費電力を削減しつつも、利用者に違和感を与えないようなシステムを構築した。この空調制御システムは、直接的に消費電力を制御しているわけではない。ただ、将来的には、使用期間が長くなるほど機器の稼働状況の予測精度を上げられる人工知能技術を、HEMSの電力制御システムに融合する取り組みが進みそうだ。
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