2011年6月13日月曜日

中国における IPv4/IPv6 事情

「World IPv6 Day」は、IPv4アドレスの在庫が枯渇した状況の中、IPv6 アドレスの円滑な導入を促すために開催され、Google や Yahoo!、Facebook、YouTube、Akamai などの大手 Web サイトから一般企業の Web サイトまで、世界の436の企業・団体などが参加しました。この間、参加企業は Web サイトに IPv4/IPv6のデュアルスタックに対応する設定(IPv4でもIPv6でもアクセスできるようにすること)を施し、IPv6に対応をしていく中での対応策や問題点の洗い出しなどを行いました。

中国では IPv6に対する取り組みは政府レベルで2000年代初頭から積極的に推し進められており、以前から様々な実験が中国全土で実施されています。中国が積極的に IPv6への技術投資を行ってきた背景には、いくつかの思惑と中国特有の事情があるとされています。Cisco や Juniper といった IPv4時代に発展かつ市場を席巻してきた欧米のネットワーク機器メーカーが、中国でもシェアを伸ばしていることに中国政府が危機感を抱き、中国の機器メーカーが IPv6という新しい技術への転換を機に主導権を握れないかと模索したのも事情の一つとされています。

この思惑の他にも現実問題として、中国は人口に対して IPv4アドレスの割当数が極めて少ないことが挙げられます。この問題は、中国自体が IPv6という大量の IP アドレス空間を利用できる技術の直接的な市場になりうることも注目されました。

実際、中国では IPv4アドレスが2億7,000万個しか割り当てられておらず(2010年12月現在、CNNIC による)、人口1人あたり1個以上の IP アドレスが割り当てられている日本やアメリカと比べ、僅か0.2個という状況です。世界全体でも IPv4アドレスは既に枯渇の状態で、大幅な追加割り当ては期待できません。このことは、今後様々なデバイスがインターネットに繋がっていくユビキタス時代を迎えるにあたって、市場拡大への大きな支障となることが想像される状況です。

その一方で、今回の「World IPv6 Day」には主要な中国企業は参加を表明しませんでした。CN ドメインを持つ Web サイトの中で参加表明した唯一の企業は、総合通信機器メーカーである中興通迅(ZTE Corporation)で、最終的な参加表明者リストにも中国系企業はこの一社のみです。

百度(Baidu)やアリババ、タオバオなどの大手サイトも一切反応を見せずじまいだったのは意外ともいえ、欧米企業が中心となったプロジェクトを敬遠したか、Web サイトの IPv6対応を行う技術的な準備が間に合わなかったなど、複数の可能性があるものとみて取れます。ただし、実際には政府系機関や教育機関などのサイトでは IPv6対応は既に進めており、必ずしも中国での取り組みが全体的に遅いとは言えません。

さらに、中国では日本やアメリカなどと違って個人が Web サイトを開設することはほぼ無いため、仮に今後 IPv6化が進んでいったとしても大きな混乱を招くことはないと考えられ、こうしたトライアルへの参加の必要性は低かったのではないか、との声も聞かれます。

現在、中国では IPv4アドレスは ISP 経由でしか割り当てられていないため、当局は ISP に対して提出する申込者情報によって個人を特定できますが、IPv6の場合には割り当て方法がまだ確立しておらず、今後どのように管理体制が敷かれるかは引き続き関心を払う必要があります。

最後に、主要な中国の大学の対応状況を調べてみましょう。これらを見てみると、各大学では IPv6サイトをそれぞれ用意し、実験的な取り組みを進めている様子がわかります。また、この動きは、IPv6の導入を推進したいとしている政府の動きに同調したものと見られます。

今回の「World IPv6 Day」に参加をした日本や欧米の ISP や主要なインターネットサービス企業は、Web サイトの IPv6対応に関する多くのノウハウを新たに吸収したであろうことに比べ、中国国内の主要な企業やインターネットサービスの Web サイトでは、IPv4/IPv6のデュアルスタック対応、もしくは IPv6専用サイトの開設といった大きな動きは今のところ見られませんでした。こうした中国企業の IPv6に対するノウハウ蓄積遅延は、中国全体での IPv6化へのスピードを減速してしまう可能性もあります。

先に触れたとおり、中国は人口に対して極めて IPv4アドレスの割当数が少なく、より広大なアドレス空間を持つ IPv6ネットワークが他の国よりも早く進まなければ、スマートグリッド・センサーネットワーク・RFID など、インターネットに大量の小型デバイスやメーターが接続されるという次世代の展開にも大きな制約が生まれてしまいます。今後の中国の IPv6を取り巻く動向が注目されます。

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