固定電話や携帯電話が集中してつながりづらい状況にあることは周囲の様子から明らかでしたので、普段持ち歩いている11インチの小型ノートPCを開き、UCツールである「Microsoft Lync」クライアントを起動しました。
Lyncには「プレゼンス」と呼ばれる相手の連絡可能状況を知るための情報が表示されます。Lyncのプレゼンス情報は自動更新されるため、相手の居場所や状態がかなりの精度で分かります。Lyncを起動して筆者が所属するグループの一覧を見ると、「青信号」、つまり「連絡可能」となっている同僚が数人いました。ここで「マルチパーティ(複数人)チャット」を呼び掛けてみました。筆者と同様に外出先からアクセスしている同僚もいましたが、声を掛けた範囲では皆無事で一安心です。「赤信号」のメンバーは、会議など何らかのコミュニケーション中ですのでおそらく大丈夫。「黄色信号」、つまり退席中のユーザーも、何分か退席している状態なのかが表示されますので、地震発生後の退席であれば無事と判断していいでしょう。
何より、このつながりが切れることがなかったことが重要です。シンプルなテキストチャットは、もともと容量を必要としませんし、十分なネットワーク帯域を確保できない場合も、一時的に遅延が発生したとしても電話のように切れたりすることはありません。相手が同じネットワーク上にいて、つながり続けているという安心感は、電話に匹敵するレベルであることを実感しました。
本当に何の準備もないまま、突然に在宅勤務を始めたわけですが、しかし意外なほど困りませんでした。これには、全社に展開されている3つのテクノロジーが大きく貢献しています。
1つ目は、Windows 7に搭載された「Direct Access」です。これは専用のVPNクライアントソフトウェアなどを必要とせず、インターネットを経由して直接企業内ネットワークに安全にアクセスできるものです。持ち帰ったノートPCで自宅でも外出先でも、すぐにオフィス内で使用しているのと同じく全てのイントラネットリソースを利用できたのです。発注やイベント管理、経理処理などのために社内システムにアクセスする機会が何度もありましたが、全て問題なく処理できました。
2つ目は、デスクトップのOfficeスイートに含まれる「SharePoint Workspace」によるフォルダの自動同期です。Direct Accessがあっても、こちら側の接続状況が悪ければ、ファイルのコピーだけでも相当な時間がかかります。SharePoint Workspaceは、「ワークスペース」と呼ばれるフォルダの内容を、複数のコンピュータ間で自動的に同期します。筆者の場合、部門のワークスペースや、自分が所有する複数のPCの「My Documentsフォルダー」を同期するワークスペースなどを持っています。このおかげで、ノートPCのローカルのHDDには、既に重要なファイルの多くがコピー済みで、サイズの大きい売上分析用Excelやセミナー用のPowerPoint資料などもすぐに利用できたのです。
3つ目はもちろんUCです。プレゼンスやテキストチャットだけでなく、在宅勤務ではオンライン会議や音声通話がさらに役立ちました。日常の部門会議は、会議室やフリースペースに移動して、資料をモニターに投影しながら行っていました。Lyncのオンライン会議では、モニターの代わりに各人のLyncクライアント上で資料やアプリケーションの共有ができますが、その資料への書き込みやアプリケーションのリモート操作もできますので、むしろ生産性が上がる部分もあります。
また、資料共有をするまでもないがテキストチャットではもどかしいような場合、Lyncの音声通話だけを使いました。内線と同じなので、相手がどこにいようとも電話代はかからず、気軽に利用できました。
外部とのコミュニケーションにも威力を発揮
外部の顧客とのコミュニケーションにもUCが活躍しました。インターネット上に会議サーバを公開しているため、外部の顧客ともオンライン会議ができます。本当は顧客先に訪問してLyncの事例取材の事前調整を行う予定でしたが、交通に不安もあったため、Lyncを使ったオンライン会議に切り替えました。
また一部のパートナー企業とは、「フェデレーション」と呼ぶ、お互いのLyncネットワークを接続するようにしていました。社内のメンバーと同じレベルで全てのLyncの機能が使えました。さらに、至急の対応のためにLyncのVoIP外線通話機能を使って顧客に電話をかけたり、外線着信を受けたりすることもありました。Lyncは、ログインさえすればクライアントソフトウェアが自分の「ソフトフォン」になり、外線の発着信ができます。持ち帰ったノートPCが筆者の電話機になったわけです。こちらから打ち明けない限り、相手は筆者が自宅から電話しているとは思わなかったでしょう。実際に公衆回線へはソフトウェアPBXとして動作している会社のLync Serverからつながっているため、相手の着信には筆者の会社の電話番号が表示されますし、通信キャリアに支払う電話代もサーバの場所からの発信として会社にチャージされます。
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