2011年6月9日木曜日

東京湾北部地震対応計画、3つのポイント

 今回、東京を襲ったのは最大で震度5強(江戸川区、足立区、板橋区、荒川区、杉並区、中野区、江東区、千代田区)。向こう30年内に70%の確率で発生すると言われる東京湾北部地震では、東京を震度6弱の地震が襲うと予想されている(南関東地震では震度6強と想定されている)。

 この際には当然、負傷者も増え、多くの道路が閉鎖され、混乱の大きさも今回の比ではないと思われる。内閣府が2008年に公表したシミュレーションによれば、「東京湾北部地震が関東を直撃した場合、被災当日は都内からさいたま市への移動だけでも通常の倍近く、すなわち11時間以上かかるだろう」と予想されている。このことからも混乱の大きさが容易に想像できる。

 こうした事実を踏まえれば、企業は「今回の東日本大震災から見えてきた課題」を真摯に受け止め、来たるべき震災に備えていかなければならないことは、火を見るよりも明らかである。

 ところで、こうした「被災直後における企業の対応の在り方」を示した行動計画を指して、「災害対応計画」や「防災対応計画」「初動対応計画」などと呼ぶ。画一的な呼び方はないが、いずれにしてもその最大の目的は人命保護にあり、避難行動や安否確認、先の帰宅困難者対応を含めた二次被害防止などといった観点についてカバーすることになる。

 企業では「災害に遭遇した際にも、事業を継続できるようにするために策定する行動計画」をBCPと呼ぶが、この人命保護を目的として定めた初動対応の計画は、このBCPの一部となるものだ。そもそも、社員の安全が確保できての"事業継続"であることから、真に役立つBCPを用意する上でも、初動対応計画は非常に重要な位置付けと言える。

■避難
 「最初の待避行動の在り方」の解は一つではないが、基本的に入居している建物の耐震性が高いようであれば、建物内にとどまっておくことがより安全だろう。とはいえ、入居している建物の耐震性、建物を取り囲むビルの耐震性、避難場所までの距離などの情報がなければ、社員も判断のしようがない。会社として責任を持って、こうした情報を確認の上、対応方針を明確にし、社員に伝えておくことが重要となる。

■安否確認
 被災当日、回線に大量のトラフィックが発生し、電話連絡が困難になった。携帯メールに頼った安否確認システムは、メールサーバに高負荷が掛かったためか、メールの送受信が著しく遅延したことが確認されている。

 また一方で、社員の安否確認に追われて来客者対応がおろそかになり、来客者がいつ帰ったのか、無事であったのか、しばらく分からなかったというケースも報告されている。さらに社員本人の無事が確認された場合でも、その家族の安否が分からないために、業務が全く手につかないという事態も多々あった。

 社員のみならず、社員の家族の安否情報が取れないと、それはそのまま事業継続のボトルネックになりかねない。企業として業務再開に向けた動きも取りづらい。 また、来客者に対していい加減な対応は、人道的に許容されるべきものではなく、最悪の場合、企業の信用を問われかねない。

 さらに、意外に知られていないことだが、社員の家族の安否確認の成否は、そのまま帰宅困難者の問題に直結する。内閣府の調査によれば、社員が「自分の家族の安否を確認できた場合」と「できない場合」で比較した際、後者の場合は「最大25%ほど帰宅困難者の数が減少する」と予測されている。

 安否確認の在り方としては、今回の震災ではデータ通信を問題なく利用できたことから、できればSkypeや音声チャットなど、データ通信を利用した連絡手段を取り入れることを視野に入れておきたい。ただし、今回の震災で使えたからと言って、次の震災の時に必ず使えるとは限らないので、常に複数の手段を持つよう心掛けておくことが重要だ。なおかつ、社員の安否だけではなく社員の家族、そして来客者の安否確認をどうするのかについても、対応を決めておくことが重要だ。

■帰宅困難者対応
 あまり知られていないが、都内で震度6以上の大地震が発生した際、警視庁は環状7号線の内側の区域を全面車両通行禁止とする交通規制を実施する。また、緊急車両を最優先で通行させるために、緊急交通路に指定されている幹線道路に関しても全線車両通行止めとなる。

 これにより、東京湾北部地震では、「200万人を越える人が満員電車状態の道路を、最低でも3時間は歩かなくてはいけない」という想定結果が出ている。負傷者の病院への移動の大きな妨げになる上、たとえ健常者でも、帰宅途中に大きな余震に巻き込まれ、二次災害を被る危険性も高くなる。

 ちなみに余震についてだが、気象庁の発表によれば、2004年に新潟県で起きた中越地震では、本震と同日内に発生した震度5以上の余震は10回を数える。今回の東日本大震災も例外ではなく、3月11日当日から12日の未明にかけて、震度5以上の余震が8回も発生している。

 こうした"一斉帰宅のパニック"を回避するために、企業も普段から「災害時の社員の帰宅方針」を定めておく必要があるだろう。まず、「どうしても真っ先に帰宅しなくてはいけない事情を抱える社員」と、そうでない社員とを分けて、段階的に時差を設けながら帰宅させることが望ましい。

 参考までに、企業で働く東京都民の3分の1の人たちの帰宅を、震災翌日に分散させるだけで、先ほど述べた「"満員電車状態で移動"する人数は、半分にまで減る」とされている。「2分の1の人を翌日に帰宅させた場合には、当日の混雑を4分の1まで減らせる」とのシミュレーション結果も出ている。

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