2011年6月2日木曜日

Nokia、第3のエコシステム

Windows Phoneをスマートフォン事業の主軸とする戦略を発表したNokiaに、コミュニティは複雑な反応を示している。iPhone、Androidに続く「第3のエコシステム」の一翼をNokiaは担えるのか——。

 MicrosoftのWindows Phoneをスマートフォンの主軸とする戦略を2月に表明したNokia——。その後、戦略推進に向けた取り組みを相次いで発表した。まずは4月21日、Microsoftと共同で、NokiaのWindows Phone採用に関する提携の契約締結を発表。そして同27日、Symbian開発をAccentureに移す計画を打ち出した。2012年の発売がアナウンスされているNokia製Windows Phoneだが、両者は取り組みを加速させているようにも見え、登場はさらに早まるかもしれない。

 世界的にはシェアが4割に達した時期もあるNokiaだが、2007年に登場したAppleの「iPhone」に端を発するスマートフォンの新しい波により、状況は一変した。Nokiaが4月中旬に発表した決算によると、推定シェアは29%にまで下がっている。Nokiaは何を誤ったのか? 課題はスマートフォンだけなのか?

 iPhoneとAndroidという脅威に対してNokiaが打ち出したのは、追われる立場としての「守りの戦略」と、追う立場としての「攻めの戦略」という2軸だったが、そのどちらも状況の好転には結びつかなかった。

 まず、守りの戦略としては、これまでスマートフォンで独占的OSの地位を堅守してきたSymbian OSがある。Symbian OSは元々、Nokiaをはじめ1990年代後半に優勢だった携帯電話メーカーが共同出資したSymbianが開発し、ライセンス提供するOSだった。Nokiaは2008年6月にSymbianを買収し、オープンソース団体として発足させる決断をする。

 こうして誕生したSymbian Foundationは2010年2月にSymbian OSをオープンソースにしたが、結果的にはこれまでSymbian端末を開発していたSony Ericsson、SamsungらがSymbianからAndroidに乗り換え、求心力を失ってしまった。

 この背景には、時代遅れといわれたSymbianの技術革新がなかなか進まなかったこともあるが、開発者やユーザーに訴求するマーケティング不足もありそうだ。メーカーにしてみれば、(非営利団体とはいえ)ライバルNokiaとのつながりが深いプラットフォームを採用することへの抵抗もあったかもしれない。いずれにせよ、開発者、メーカー、ユーザーを囲う魅力的なエコシステムを構築できなかった。

 2010年9月にMicrosoftから迎えた新CEO、スティーブン・エロップ(Stephen Elop)氏は同年11月、Symbian Foundationを解体し、SymbianをNokiaの管理下に置くという方針を発表。事実上、オープンソースとしてのSymbianは失敗となった。

 攻めの戦略は、「MeeGo」だ。MeeGoは、これまで「Maemo」として開発を進めてきたLinuxベースのOSを、米Intelの「Moblin」とマージさせるというもの。2010年2月のMobile World Congressで、Nokiaのデバイス担当トップであるカイ・オイスタモ(Kai Oistamo)氏とIntelの上級副社長兼ソフトウェア&サービス事業部長、レネー・ジェームズ(Renee James)氏が大々的に発表した。

 だが、発足から1年が経過してもNokiaはMeeGoスマートフォンを発表せず、Nokia以外の携帯電話メーカーの採用も取り付けていない。Nokia社内ではMeeGo端末の開発が進んでおり、開発チームも会心の作を目指して情熱を注いでいたようだが、成熟度の低いMeeGoをメインプラットフォームにすることはリスクを伴う。実際、前身となるMaemoを搭載した初のスマートフォン「Nokia N900」の販売台数は、発売後5カ月で10万台に達しなかったともいわれており、MeeGoも二の舞になりかねない。これまでのしがらみをもたないエロップ氏は、Windows Phoneを採用するリスクの方が低いと踏んだのだろう。

 Windows Phone採用についてエロップ氏は、スマートフォン事業が「エコシステムの戦いになった」と説明した。SymbianやMeeGoではAndroidとiPhoneのエコシステムに対抗できないと判断したことになる。新戦略の下、Symbianは今後も継続するが長期的にはWindows Phoneに塗り替えていき、MeeGoは実験的な取り組みという位置づけとなった。Symbianは、Accentureに開発を移すことが発表されている。MeeGo端末は2011年内に1台発表するという。

 NokiaとMicrosoftの提携発表直後、Symbian OSのUIであるS60の担当技術担当副社長を務めていたデビッド・リバス(David Rivas)氏は、「Microsoftとの提携により、共同でイノベーションを起こし、(iPhoneとAndroidに次ぐ)"3つ目"のエコシステムを作る」と説明した。

 Nokiaは、ユーザーがある程度の時期までSymbianを使い、その後Windows Phoneに移行するというシナリオを描くが、Windows Phoneが主力となるまでの長い移行期間の舵取りは難しいところだ。Nokiaのエロップ社長は5月末、中国で開催したNokia Communicationで、「Symbianへの投資は継続している。まさに、その最中にある」と述べ、Symbianへのコミットを示した。Nokiaは4月25日に最新の「Symbian Anna」を搭載した「Nokia E6」「Nokia X7」を発表しているが、Symbian端末は2012年まで新機種を投入すると予想されている。エロップ氏は、サポートは2016年まで継続すると述べている。

 Windows Phone採用発表の直後、Intelのジェームズ氏は2011年のMobile World Congressで、IntelとしてMeeGoプロジェクトを継続する決意を語りながらも、「(Nokiaの発表に)失望した」と驚きを隠せない様子だった。開発者やユーザーなどのNokiaコミュニティもまた、動揺と反発をあらわにした。

 Nokiaでアプリ開発フレームワーク「Qt」のマーケティングを統括していたダニエル・キールベルグ(Daniel Kihlberg)氏は、「Qtユーザーには大きなLinuxコミュニティがあり、失望の声があることは確か」と認める。QtはSymbianとMeeGoの両方に開発できるツールと位置づけられ、2011年11月に開催された「MeeGo Conference」などで開発者への積極的なアピールを開始したばかりだった。Qtは、新戦略で主役となるWindows Phoneには対応しておらず、Windows PhoneではMicrosoftの開発ツールを利用することになる。

0 件のコメント:

コメントを投稿