2011年6月6日月曜日

SIP再考——複数のメディアを融合させたコミュニケーション"

 SIPとは、IETF(Internet Engineering Task Force)の標準通信プロトコルで、音声や画像などのマルチメディア情報のセッションを制御するために開発された技術だ。IP電話、テレビ電話/ビデオチャット、インスタントメッセージなど「双方向のリアルタイム通信の制御」に適している点が特徴だ。リアルタイム・マルチメディア・データ通信に利用されるプロトコル、H.323もあるが、SIPはH.323に比べるとその構造や、テキストベースであるため扱いがシンプルな点で、将来的にメディアを拡張する面で有利だと言える。

 ただ周知の通り、SIPは新しい技術ではない。また、2000年代初頭には注目を集めたが、それ以降はさほどメディアなどに取り上げられることもなく今に至っている。よって、前のページでSIPと聞いたとたん、「何を今さら」と思った向きも当然あるだろう。だが、企業(エンタープライズ)コミュニケーションにおいて広く普及したと思われていないSIP は、実は通信サービスプロバイダの領域では、IMS (IP Multimedia Subsystem=第三世代携帯電話の規格団体である3GPPによって策定された「携帯電話コアネットワークをIP化し、マルチメディアサービスを実現する」システムのこと) 基盤のプロトコルとして広く使われるようになっていることに注目したい。

 現在はマルチメディアを使ったコミュニケーションが、以前に比べて非常に活発化している。よって、通信サービスプロバイダだけではなく、多くの企業にとって、今あらためてその有用性に注目することが重要なのではないか、ようやくSIPの特徴が本格的に、広く求められる状況になってきたのではないか——そう考えたのが、本連載を企画したきっかけである。実際、昨今の業務トレンドやニーズを思い浮かべながらSIPについて考えてみると、実に多様な可能性が広がっているのだ。

 まず、企業がSIPを利用するメリットとして、あらゆるコミュニケーション手段の運用コスト削減が望めることが挙げられる。新しいサービスを迅速に構築できることも大きなメリットだ。特に昨今は、スマートフォンなどのマルチメディア対応携帯端末が急速に浸透している。これは企業がコールセンターの一サービスとしてビデオや動画配信を始めた場合も、サービスの受け手側が任意にそれらを享受できる環境が整っているということだ。このため、企業は"端末に依存した開発コスト"を抑えながら、「迅速にサービスを立ち上げられるSIPの利点」を存分に生かすことができる。

 スマートフォンを利用してコンタクトセンターに問い合わせをしてきた顧客には、通話しながら、必要に応じて問い合わせに関連する画面やストリーミングを配信することも可能だ。前述のように、Twitterのタイムラインを監視して、社内の関係者に問い合わせ、適宜レスポンスする、あるいは社内に蓄積するといったこともできる。

 社内コミュニケーションも効率化・活性化できる。例えば、SIPを利用したIMなら、メッセージ交換だけではなく、プレゼンス情報も提供してくれる。企業内で連絡を取りたい相手の在席状態を把握できれば、電話を掛けようとした相手が「通話中」なら、電子メールやIMを選ぶといった具合に、無駄なコミュニケーションを減らせる。電話会議中の相手と、自分が見ている資料をPC画面で共有しながら話を進めることもできる。マルチメディア対応はもちろん、"複数のメディアを融合させたコミュニケーション"を効率的に実現できる点もSIPの特徴であるためだ。

 また、PCやモバイルが普及している今、そうした特徴を生かせば、時間と場所を選ばず"いつでもどこでも仕事ができる"環境も整えやすい。リーマンショック以降、コスト削減やパンデミック対策としてビデオ会議やWeb会議を導入する企業が大幅に増えたが、昨今重視されているBCPの観点でも、SIPはワークスタイルのさまざまな可能性を示唆してくれるのである。

 もちろん、コミュニケーション基盤を整備する方法はSIPを使ったものだけとは限らない。ただ以上のように、SIPには「効率的なマルチメディア対応」「コスト削減」「新サービスの構築が容易」という大きな3つのメリットがある。これらはまさしく今、企業が求めているものなのではないだろうか。

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